2月28日。バレンタインデー。 その日、神田神保町は普段と変わりなく、古書店街の細い裏道にも人々の往来が激しかった。だが、古書店〈峨眉書房〉の店長である斯波宗英は、その日の午後から姿をあらわしていない。どうやら風邪をこじらせて寝こんでいるらしいのだが、大学受験をひかえた一人娘の毛毬だけが、上機嫌で店番を続けている。